こんにちは いぬい歯科クリニック 院長の乾です。
「40代まではそんなに歯で困っていなかったのに、50代になってから急に歯が悪くなってきた」
「昔治療した歯が次々とダメになってきた」
「最近、抜歯やインプラントの話をされることが増えた」
50代の患者さんを診療していると、このようなお話を聞くことがあります。
実際、50代はお口の中に変化が現れやすい年代です。
厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査では、1人平均現在歯数は40〜44歳で27.9本、45〜49歳で27.8本ですが、50〜54歳では26.4本、55〜59歳では26.5本、60〜64歳になると24.8本となっています。

親知らずを除く永久歯は28本ですから、40代では多くの歯が残っていても、50代以降になると少しずつ歯を失っていくことが分かります。
では、なぜ50代になると歯が悪くなってくるのでしょうか?
私は、「50代になったから突然歯が悪くなった」というよりも、20代、30代、40代から少しずつ積み重なってきた問題が、50代になって表面化しているケースが多いと考えています。
今回は、その理由についてお話しします。
50代で突然悪くなったわけではありません
例えば20代の頃に虫歯になり、小さな詰め物をした歯があったとします。
その後、詰め物の下から再び虫歯になり、30代で大きな詰め物へ。
さらに虫歯が進行して40代で神経を取り、被せ物になった。
そして50代になり、その歯が割れて抜歯になる。
このような経過をたどることは決して珍しくありません。
患者さんからすると、
「急に歯が割れた」
「突然抜歯になった」
と感じるかもしれません。

しかし歯科医師の立場から見ると、その歯の問題は20年、30年前から始まっていた可能性があります。
だからこそ私は、今ある虫歯を治すだけではなく、
「この歯を10年後、20年後にどう残していくのか」
という視点がとても大切だと考えています。
50代から歯が悪くなる3つの大きな原因
歯を長く残すことを考えるとき、私は大きく3つの問題を見るようにしています。
「カリエス(虫歯)」「ペリオ(歯周病)」、そして「パワー(噛み合わせや歯ぎしりなどの力)」です。
① カリエス(虫歯)― 昔治療した歯が再び悪くなる

50代になると、「初めて虫歯になった歯」よりも、昔治療した歯の再治療が問題になるケースが増えてきます。
銀歯や詰め物、被せ物の境目から虫歯が再発したり、治療を繰り返すたびに残っている自分の歯が少なくなったりします。
小さな詰め物
↓
大きな詰め物
↓
被せ物
↓
神経を取る
↓
再根管治療
↓
破折・抜歯
もちろん、すべての歯がこのような経過をたどるわけではありません。
しかし歯は治療するたびに元通りになるわけではなく、自分自身の歯質は少しずつ失われていきます。
だからこそ、最初の治療から再発しにくい治療を選ぶこと、そして治療後も定期的にチェックすることが重要になります。
② ペリオ(歯周病)― 痛くないまま進行する

50代から特に注意したいのが歯周病です。
歯周病の怖いところは、虫歯のように「痛い」「しみる」という症状が出ないまま進行することがある点です。
「特に困っていないから大丈夫」
と思っていても、
歯ぐきから血が出る、歯周ポケットが深くなる、歯を支えている骨が少しずつ減る、といった変化が起こっている場合があります。
そのため、50代になって歯がグラグラしてから歯科医院を受診すると、すでにかなり骨が失われているケースもあります。
大切なのは、「歯が痛いか」ではなく、歯周組織が健康な状態を維持できているかを定期的に確認することです。
③ パワー(力)― 実は見落とされやすい原因です

そして、私が非常に重要だと考えているのが「力」です。
歯ぎしり、食いしばり、噛み合わせなどによって、特定の歯に長期間強い力がかかり続けることがあります。
20代では問題がなくても、同じ力が10年、20年、30年とかかり続ければどうでしょうか。
特に、
神経を取っている歯、大きな被せ物が入っている歯、歯周病によって支えている骨が少なくなっている歯などに強い力が集中すると、歯が割れたり、揺れたりするリスクが高くなります。
だから私は、
「虫歯がないから大丈夫」
だけでは十分ではないと考えています。
虫歯、歯周病、そして力。
この3つを総合的に診ることが、歯を長く残すためには大切です。
「奥歯が1本なくなっただけ」が崩壊の始まりになることも
50代以降で特に気をつけたいのが、奥歯を失った後です。
「一番奥だからなくても困らない」
「反対側で噛めるから大丈夫」
と思われる方もいらっしゃいます。
しかし、1本の歯を失うということは、それまでその歯が受け持っていた力を、残っている歯で負担するということでもあります。
すると残った奥歯への負担が増え、次の歯に問題が起こる。
さらに奥歯を失うと、今度は前方の歯への負担も増えていく。
このように、お口全体のバランスが少しずつ崩れていくことがあります。
だからこそ、歯を失ったときには、
「インプラントを入れるか、ブリッジにするか、入れ歯にするか」
だけを考えるのではなく、
「そもそも、なぜこの歯を失ったのか?」
を考えることが非常に重要です。
歯周病が原因だったのか。
虫歯だったのか。
神経を取った歯が割れたのか。
噛み合わせや歯ぎしりによる力が原因だったのか。
原因を改善せずに失った歯だけを補っても、次の歯に同じことが起こる可能性があります。
歯並びや噛み合わせは若いうちから考える意味があります
私は矯正治療についても、単に見た目をきれいにするためだけの治療とは考えていません。
例えば歯並びや噛み合わせによって、特定の奥歯に強い力が集中している場合。
20代では何も症状がなくても、30年その状態が続けば、50代になって問題が表面化することがあります。

また、歯が重なっていて清掃しにくいところでは、虫歯や歯周病のリスクも高くなります。
だからこそ私は、20代、30代の患者さんにも、必要であれば矯正のお話をします。
「今困っているから矯正する」のではなく、
50代、60代になったときに、できるだけ多くの歯を健康な状態で残すために矯正を考える。
そういう視点もあって良いと思っています。
メンテナンスに通っているだけで安心、ではありません

「私は3か月に1回、歯医者に行っているから大丈夫」
という方もいらっしゃると思います。
もちろん定期的なメンテナンスは非常に重要です。
ただ、もっと大切なのは、
「お口の中が本当に良い方向へ向かっているのか」
を確認することです。
毎回クリーニングをしていても、
ずっと同じところから出血している。
歯周ポケットが少しずつ深くなっている。
同じところの詰め物が何度も取れる。
特定の歯ばかり悪くなる。
奥歯の骨が少しずつ減っている。
このような状態であれば、クリーニングを続けるだけではなく、原因をもう一度考える必要があります。
メンテナンスとは「歯石を取ってもらう場所」ではありません。
お口の中の変化を継続的に確認し、問題が大きくなる前に原因を見つけるための大切な時間だと私は考えています。
50代からでも遅くありません
ここまで読むと、
「もう50代だから手遅れなのかな」
と思われるかもしれません。
そんなことはありません。
50代は、これから先の歯の健康を考えるうえで非常に重要なタイミングです。
現在どれだけ歯が残っているのか。
歯周病は進行していないか。
昔治療した歯はどうなっているのか。
神経を取った歯は何本あるのか。
噛み合わせに問題はないか。
歯ぎしりや食いしばりはないか。
そして、このまま10年、20年経ったとき、どこに問題が起こる可能性があるのか。
一度お口全体をしっかり診査診断することで、今からできることはたくさんあります。
まとめ ― 50代の歯を守るために大切なこと
50代になったから、突然歯が弱くなるわけではありません。
20代、30代、40代から積み重なってきた、
虫歯、歯周病、過去の治療、歯ぎしり、食いしばり、噛み合わせなどの問題が、50代になって表面化していることがあります。
だから私は、悪くなった歯を一本ずつ治療するだけではなく、
「なぜこの歯が悪くなったのか」
「次に悪くなる可能性があるのはどこなのか」
「10年後、20年後にどういうお口の状態でいたいのか」
というところまで考えることが大切だと思っています。
今痛くないから大丈夫、ではなく。
今ある歯を、これから先どう守っていくのか。
50代は、そのことを改めて考えるとても良いタイミングだと思います。
