「下の前歯の後ろ側に、大人の歯が顔を出しているのに、乳歯がまだ残っている」「歯が二重になっているように見えて、このままで大丈夫なのか不安」。仕上げ磨きのときや、お子さんが口を開けた拍子にふと気づいて、慌ててご相談に来られる保護者の方は少なくありません。
乳歯が揺れずに残ったまま、永久歯が後ろ側から生えてくる状態は、実は生え変わりの時期にはよく見られるものです。多くの場合は慌てて処置をする必要はありませんが、一部には歯科での確認が望ましいケースも含まれています。
この記事では、吹田市で小児の診療にあたる歯科医院の立場から、様子を見てよい場合と受診したほうがよい場合の違い、考えられる原因、受診したときの流れ、乳歯を抜く判断の考え方、放置したときに心配されることをまとめました。なお、乳歯が早く抜けてしまう場合の悩みについては、別の記事「5歳で乳歯が抜けるのは早すぎる?」で解説しています。今回は「抜けるのが遅い、あるいは抜けないまま永久歯が出てくる」というお悩みを取り上げます。
乳歯の後ろから永久歯が生える状態とは

乳歯が残ったまま後ろ側から永久歯が生えてくる状態は、生え変わりの途中で起こりやすく、その多くは経過を見ながら自然に整っていきます。ただし、乳歯がまったく揺れない場合などは確認が必要です。
二枚歯(二重歯列)とは
二枚歯とは、乳歯が抜ける前に永久歯が生えはじめ、歯が前後に二重に並んで見える状態のことです。二重歯列と呼ばれることもあります。特に下の前歯で目立ちやすく、乳歯の舌側(舌に近い側)から永久歯の先が顔を出します。
永久歯は、あごの骨の中で乳歯の根の真下や少し内側に作られています。本来は乳歯の根が溶けて乳歯が自然に揺れ、抜けたあとの隙間に永久歯が出てくるのが典型的な流れです。ところが、乳歯の根の吸収が追いつく前に永久歯が先に伸びてくると、乳歯の後ろ側に顔を出す形になります。
永久歯が「後ろから」見える理由
下の前歯の永久歯は、乳歯よりも一回り大きく、あごの中で乳歯の内側寄りに位置していることがあります。そのため、生えはじめの位置が乳歯の後ろ側にずれやすい傾向があります。
診療の現場でも、小学校に入学した頃のお子さんで「下の前歯が二重に見える」という理由で来院される方がたびたびいらっしゃいます。お口の中を拝見すると、乳歯がわずかに揺れ始めているお子さんが多く、乳歯が抜ければ、舌や唇の力で永久歯が本来の位置へ移動していくことが期待できます。
生え変わりの順番とペースには個人差がある
乳歯から永久歯への生え変わりは、下の前歯から始まることが多いとされていますが、始まる時期も進むペースもお子さんによってかなり異なります。同じ年齢の友達と比べて早い、遅いと感じても、それだけで問題があるとは限りません。
診療の現場では、「周りの子はもう生え変わっているのに、うちの子はまだ」「逆に、うちの子だけ早すぎるのでは」というご心配の声をよくうかがいます。左右の歯が同じ時期に揃って生え変わるとは限らず、片側ずつ順番に進むお子さんも多くいらっしゃいます。大切なのは、年齢だけで判断せず、お口の中の個々の歯の状態を見て判断することです。
様子を見てよいケースと、受診したほうがよいケース

乳歯に揺れがあり、永久歯が少しずつ伸びてきているなら、しばらく経過を見てよい場合が多くあります。一方で、乳歯が全く揺れない場合や、永久歯の生え方が大きくずれている場合は、早めの受診をおすすめします。
経過を見てよい目安
次のような様子があれば、慌てずに経過を見ながら生え変わりを待つことができる場合が多いです。
- 後ろ側に見える永久歯の高さが、日を追って少しずつ伸びている
- 乳歯に揺れが出てきている、または痛みなく動かせる
- 乳歯の歯ぐきに、強い腫れや膿の出口がない
- 隣の歯と比べて、永久歯の向きが大きく傾いていない
生え変わりのペースには個人差があり、数か月かけてゆっくり進むことも珍しくありません。揺れ始めたら、お子さん自身が舌で押したり、食事中に自然に動いたりして、抜けるきっかけになることがあります。
早めに受診してほしい目安
こんなときは、様子見を続けずに歯科医院へご相談ください。
・永久歯が見えてから数か月たっても、乳歯がまったく揺れない
・乳歯の歯ぐきが赤く腫れている、膿のようなものが出る、触ると痛がる
・永久歯が大きく傾いている、または外側や内側へ極端にずれて生えている
・左右で生え変わりの進み具合が大きく違う
乳歯が揺れないまま永久歯が出てきたときには、乳歯の根の状態や、永久歯の位置を確認する必要があります。数か月たっても変化がないときは、レントゲンで状態を確かめるのが安心です。 吹田市で小児歯科をお探しの方に向けて、受診の時期の考え方を 通い始める時期と、嫌がるお子さんへの向き合い方 でもお伝えしていますので、はじめての受診でご不安な方は参考にしてください。
なぜ乳歯が抜けないまま永久歯が後ろから生えるのか

主な原因は、永久歯の位置がずれて生えてくること、あごのスペースが足りないこと、乳歯の根の吸収が遅れていることの3つです。原因によって、見守ってよいか処置が必要かが変わります。
後継永久歯と異所萌出
後継永久歯とは、乳歯が抜けたあとに同じ場所へ生えてくる永久歯のことです。通常は乳歯の真下から押し上げるように生えてきますが、位置がずれると別の場所から顔を出します。
異所萌出とは、永久歯が本来とは異なる位置や方向から生えてくることです。下の前歯が乳歯の内側から出てくるのも、広い意味では異所萌出の一種として扱われることがあります。多くは軽度で自然に改善しますが、ずれが大きい場合は矯正的な対応を相談する必要が出てきます。
あごのスペースが足りない場合
永久歯は乳歯より大きいため、あごの幅が小さいお子さんでは、歯が並ぶ場所が足りず、後ろ側へ押し出されやすくなります。診療の現場では、乳歯の時期から歯と歯の間にほとんどすき間がないお子さんで、このような生え方になる例が多くみられます。
あごの成長には、お口の周りの筋肉の使い方も関わるといわれています。口呼吸の習慣がある場合など、歯並びへの影響が気になる方は、子どもの口呼吸はなぜ起こる?お口ぽかんの治し方 もあわせてご覧ください。
乳歯の根の吸収が遅れる場合
乳歯の根が溶ける(吸収される)のは、下から押し上げる永久歯の刺激があってこそです。そのため、永久歯の位置がずれて乳歯の根にうまく当たらないと、根の吸収が進まず、乳歯が揺れないまま残ることがあります。
また、乳歯の根の形に特徴があるなど、まれな理由で永久歯の萌出が妨げられることもあります。日本小児歯科学会の機関誌『小児歯科学雑誌』には、乳歯に過剰な根があり後継永久歯の萌出が遅れた症例の報告があります。こうしたまれなケースは、見た目だけでは判断できないため、レントゲンでの確認が役立ちます。
| 主な原因 | 見られやすい様子 | 考え方の目安 |
|---|---|---|
| 永久歯の位置のずれ | 永久歯が乳歯の内側や外側から出る | 乳歯が揺れていれば経過観察が多い |
| あごのスペース不足 | 歯が重なって見える、すき間が少ない | 歯並び全体の確認が必要 |
| 乳歯の根の吸収の遅れ | 乳歯がまったく揺れない | レントゲンで根の状態を確認 |
これらの原因は、ひとつだけでなく重なっていることもあります。たとえば、あごのスペースが少なめのお子さんで、さらに永久歯の位置が内側寄りだった場合には、乳歯の根の吸収がゆっくり進み、乳歯が長く残ることがあります。
診療の現場では、同じ「後ろから生えてきた」という訴えでも、乳歯がぐらぐらしていて数週間で抜けてしまうお子さんもいれば、乳歯がしっかり固定されたまま永久歯だけが伸びてくるお子さんもいらっしゃいます。見た目が似ていても、お口の中で起きていることは異なるため、原因を見分けるうえで、乳歯の揺れの有無とレントゲンの情報が手がかりになります。
受診したときの診察と検査の流れ

受診では、お口の中の観察とレントゲン撮影で、永久歯の位置と乳歯の根の状態を確認します。そのうえで、経過観察でよいか、乳歯を抜くべきかを判断します。
診察で確認すること
当院では、はじめに、お子さんがどのくらい不安を感じているかを確かめながら、無理のないペースで進めます。お口の中の確認では、次のような点を診ています。
- 乳歯の揺れの程度と、歯ぐきの腫れ・痛みの有無
- 永久歯が生えている位置と、傾きの程度
- 前後左右の歯の並び方と、噛み合わせの様子
- むし歯や、乳歯の形の異常がないか
受診の前にお伝えいただきたいこと
診察をスムーズに進めるために、次のような点をメモしておいていただけると助かります。
- 後ろから永久歯が見えることに気づいた時期
- 乳歯の揺れや、食事のときの痛みを訴えていないか
- 転んで口をぶつけたなど、歯や歯ぐきを強く打った経験
- 指しゃぶりや、お口をぽかんと開けている癖の有無
なお、お口をぽかんと開けて過ごす癖がある場合は、あごの成長や歯並びに関わることがあります。診察の際には、普段のお口の使い方や、鼻で呼吸できているかどうかについても、あわせてうかがうことがあります。ささいなことでも、気づいた点があればお知らせください。
あわせて、レントゲンで歯ぐきの中の様子を確認することがあります。歯ぐきの下にある永久歯の向きや、乳歯の根が溶けているかどうかは、見た目だけでは分からないためです。検査の結果をもとに、「今は様子を見る」「乳歯を抜く」「経過を追って再度確認する」のいずれかをご提案します。 費用は診査・診断のうえでご案内します。
乳歯を抜く判断と、ご家庭でできる対応

乳歯を抜くかどうかは、揺れの程度、永久歯の位置、お子さんの様子を総合して判断します。ご家庭では、無理に抜こうとせず、歯みがきと経過の観察を続けることが大切です。
乳歯を抜いたほうがよいと判断するとき
診療の現場では、永久歯がかなり伸びているのに乳歯がしっかり残っている場合に、歯科医院で乳歯を抜くことがあります。乳歯が邪魔をしていると、永久歯が本来の位置へ動きにくくなるためです。抜いたあとは、舌や唇の力で永久歯が前へ移動していくことが期待できます。
ただし、乳歯を抜けばすべて解決するとは限りません。あごのスペースが足りないお子さんでは、抜いたあとも永久歯が並びきらない場合があります。その際は、成長に合わせた歯並びの相談へと進みます。抜歯の判断は、永久歯の位置やお子さんの怖がり方も踏まえて、慎重に行います。
抜歯のあとの過ごし方
乳歯を抜いたあとは、その部分の歯ぐきが少し敏感になっています。当日は、強いうがいや、傷口を舌や指で触ることを控えていただくようお伝えしています。食事は、熱いものや硬いものを避け、反対側の歯で噛むようにすると、落ち着きやすくなります。
抜いたあとの歯ぐきは、数日かけて少しずつ落ち着いていきます。その後は、永久歯が舌や唇の力で前へ動いていく様子を、定期的に確認していきます。抜いた直後に位置が整うとは限らないため、数か月のあいだ、経過を見守ることが大切です。 出血が止まらない、痛みが強くなる、腫れてくるといった場合には、早めにご連絡ください。
ご家庭でできること・避けたいこと
やってはいけないこと
・揺れていない乳歯を、糸やペンチなどで無理に引き抜こうとする
・永久歯が気になるからと、歯ぐきを強く押したり触り続けたりする
・「そのうち抜けるから」と、歯みがきを念入りにしなくなる
二重に歯が並ぶと、歯と歯の間が磨きにくくなり、汚れが残りやすくなります。特に下の前歯の裏側は、唾液の出口に近く、歯石がつきやすい場所です。生え変わりの時期は、むしろ仕上げ磨きを丁寧に行いたい時期です。 磨き方のコツは 仕上げ磨きの正しいやり方 で、年齢別の進め方も含めて紹介しています。
放置したときに心配されることと、歯並びへの影響

乳歯が長く残ったまま放置すると、永久歯の位置のずれが固定されたり、むし歯や歯肉の炎症が起きやすくなったりする可能性があります。多くは早めの確認で防げます。
むし歯・歯肉の炎症への影響
歯が二重に並ぶと、前後の歯の間に食べかすやプラーク(歯垢)が残りやすくなります。生えたての永久歯は、表面が成熟しきっておらず、むし歯になりやすいといわれています。乳歯と永久歯が重なった部分は歯ブラシが届きにくいため、むし歯や歯ぐきの炎症のきっかけになりかねません。
診療の現場では、「永久歯が生えてきたことに気づいたものの、磨きにくくて歯ぐきが赤く腫れている」という状態で来院されるお子さんも見られます。こうしたときは、歯みがきの当て方を一緒に確認し、必要に応じて歯の汚れを取る処置を行います。生え変わりの時期のむし歯予防として、保護者の方による仕上げ磨きは続けていただきたいところです。
歯並び・噛み合わせへの影響
永久歯が乳歯の内側に生えたまま位置が変わらないと、噛み合わせがずれたり、前歯が重なって並んだりする可能性があります。生え変わりの時期に整うことも多いのですが、すき間が足りない場合は自然には整いにくいこともあります。
歯並びの乱れは、見た目だけでなく、歯みがきのしやすさやむし歯・歯周病のなりやすさにもつながります。矯正治療の必要性については、子どもの矯正は本当に必要か? で考え方を整理していますので、気になる方は参考にしてください。
子どもの矯正を考えるタイミング
生え変わりの途中で歯並びが気になったとき、すぐに矯正を始めるわけではありません。成長の途中で自然に整う部分と、介入を検討する部分とを見分けながら、経過を追っていきます。必要かどうかは、診査・診断のうえで判断します。 矯正の相談時期の目安や、治療にかかる期間については 子どもの矯正はどれくらい期間がかかるの? もご覧ください。
なお、お子さんの矯正は見た目の問題にとどまらず、歯を長く守ることにもつながります。詳しい考え方は 矯正は見た目のためだけじゃない 歯を守るために大切な理由とは? で紹介しています。
よくある質問

ここでは、乳歯の後ろから永久歯が生えてきたときに、保護者の方からよくいただく質問にお答えします。個々のお子さんで状態は異なりますので、気になる場合は歯科医院で確認してください。
Q. 乳歯が揺れていなくても、様子を見て大丈夫ですか?
A. 永久歯が見えはじめたばかりであれば、数か月ほど経過を見ることもあります。ただし、乳歯がまったく揺れないまま永久歯がどんどん伸びてくる場合は、早めの受診をおすすめします。レントゲンで乳歯の根の状態を確認すると、判断がしやすくなります。
Q. 自宅で乳歯を抜いてもいいですか?
A. 揺れの少ない乳歯を無理に抜くと、強い痛みや出血、歯ぐきの傷につながることがあります。ご家庭での無理な抜歯はおすすめしません。揺れが大きくなって自然に抜けるのを待つか、歯科医院にご相談ください。
Q. 抜歯のとき、お子さんは痛がりますか?
A. 痛みの感じ方には個人差があります。揺れがかなり大きい乳歯であれば、表面麻酔などで負担をやわらげて対応することもあります。お子さんの怖がり方に合わせて、無理のない進め方をご相談します。
Q. このまま放っておくと、歯並びが悪くなりますか?
A. 多くの場合は、乳歯が抜ければ永久歯が自然に前へ移動して整っていきます。ただし、あごのスペースが足りないなどの理由で、整いきらないこともあります。個人差がありますので、経過を見ながら必要に応じて相談してください。
診療の現場では、「乳歯が抜けたあとも、永久歯が少し内側に傾いたまま残っている」という状態で、生え変わり全体の様子を見ながら相談されるお子さんもいらっしゃいます。その場合は、前歯だけでなく奥歯の生え変わりまで含めて、数か月から年単位で経過を追っていくことが一般的です。
まとめ|気になったら、「経過を見る」前に一度ご相談を

乳歯が抜けないまま永久歯が後ろから生えてくる状態は、よく見られる生え変わりの一場面です。多くは慌てる必要はありませんが、乳歯が揺れない場合や、生え方が大きくずれている場合は、一度歯科医院で確認しておくと安心です。
この記事のポイントを整理します。乳歯に揺れがあるうちは、歯みがきを丁寧に続けながら経過を見ることが基本です。揺れがない、腫れや痛みがある、永久歯が大きく傾いているといったときは、早めのレントゲン確認が判断の助けになります。 無理に抜こうとせず、歯科医院にお任せください。
生え変わりの時期は、お口の環境が大きく変わる時期でもあります。吹田市で、お子さんの乳歯や永久歯の生え方、歯並びについてご不安をお持ちの方は、どうぞお気軽にいぬい歯科クリニックまでご相談ください。吹田市周辺にお住まいで小児歯科をお探しの保護者の方も、お待ちしています。
